千葉眞「アーレントと自由の政治」

千葉眞「アーレントと自由の政治−世界形成と抵抗の政治−」『思想』No837、1994



アレンとへの3つの問いかけが本論考を構成する。
それは、1、「政治の目的とは何か」2、「政治の内実は何か」3、「政治の独自性−政治に固有の価値ないし政治の
自立的(Independent)価値−に関する彼女の定式化をどのように評価すべきなのか」である。
1に対しては「それは自由にほかならない」、2に対しては「それは世界形成の政治*1および抵抗*2の双方である」、3に
対しては「そこには魅力と困難性の両面が見られる」とする。
これらの答えは2つのことを導き出す。まず、アーレントの政治概念には、自由こそが一貫して政治の目的であると
理解されており、さらにアーレントの自由の政治が同時に政治の自由−つまり、政治の独自性−に根拠づけられてお
り、逆もまた真であることを示している。
 世界形成と抵抗とを基軸とするアーレントの自由の政治のヴィジョンは国民国家の枠を越えて一種の世界市民の政治
理論として1つの理論的基礎を提供する可能性がある。しかし、その世界規模の組織の実現は困難であり、アーレント
集権型世界国家には否定的である。アーレントは共和制的な多種多様の評議会組織を媒介とした政治体制たる地球規模
の連邦制度というヴィジョンに近いところにいたということが可能なのである。

*1:政治体の「創設」(founding)のテーマ:人々が京協調して行為する時には常に、「相互に団結し、約束を取り交わし、結束し契約をとり交わすこと」によって共同の権力が創出される。そこにこそ、この「世界を建設していく能力」が示されるのである。

*2:近代世界における系統的組織化(市場や資本や労働など)や世界疎外化の諸勢力などの多面的なものに対する抵抗(プロテスト)のテーマ、:「市民的不服従の問題」「パーリアの世界に対する態度の問題」「極限状況における哲学者の真理へのコミットメントの問題」