鈴木謙介(2007)『ウェブ社会の思想』NHKBOOKS

ウェブ社会の思想 〈遍在する私〉をどう生きるか (NHKブックス)

ウェブ社会の思想 〈遍在する私〉をどう生きるか (NHKブックス)


ウェブ社会における私と私-社会の問題を描いていく。

現在、私達は技術の進展(ユビキタス化)により閉ざされた未来に気づかないことと
<偏在するわたし>をどう生きるかという問題に直面している。<偏在するわたし>
とは、バーチャルはわたし(わたしを表現するデータ)がユビキタスな環境の中で偏
在し、わたしより先にわたしを代弁してしまうという事態だ。その中で記録の優越化
が進むと私たちの生は宿命的決定論に彩られるようになっていくとする。さらにその
宿命の捕え方も「あへて」から「まじ」に、「メタ自己」から「内発的動機付け」に
変化していく。
 では、そのようなわたしは、他者と他者との関係を築いていく社会の問題はどうな
っていくのか。わたしの存在には他者、その他者との共通の体験・認識が基礎となる
が現在はその集合的記憶より、各個人の恣意的選択の「事実」によって構成される<
現実>が表に現れて来ている。そこではまた社会の問題を扱う民主主義も危機に直面
する。ここでは、ネット民主主義として工学的民主主義と数学的民主主義が紹介され
るがどちらも不可能性を背負っており、否定される。
 宿命が社会的な関係から生み出されるならば、関係性のあり方が変化すれば宿命も
変化するはずであり、必要なのは宿命=セカイの外側に固定されることのない関係が
担保されていることである。では私的な関係への欲求を「公共性」へ繋げるプロセス
はどのようなものになるのか。それは「持続」という事実であり、そのような時間性
の「事実」こそが、別の<現実>へと開いていく。「時間的な持続」という事実を獲
得することは、結局、「過去」や「未来」の見ず知らずの他者に対する関係を欲求す
ることにほかならない。


他者関係への「開かれ」を、私達は無視し続けることができない。



色々、具体的事例が引いてあってためになりましたね。