小野紀明「自由主義の政治哲学における人間と市民(2)」
小野紀明「自由主義の政治哲学における人間と市民‐バンジャマン・コンスタンを中心にして‐(2)」
『神戸法学雑誌』(1978)第28巻第4号pp.507-570
読みました。
カント、ルソー、ミルなどをみながらコンスタンの個人像を見ていく。
人間相互の内的コミュニケーションを可能ならしめる道徳的共同体が存
立する可能性がなくなった思想状況においてコンスタンはロマン主義的
世界観に解決の糸口をみた。
現象界の彼方に存在するロマン主義的実存界を想定することによって、
二元的世界観を復活させ、人間の内面的自由と、人間相互の内的コミュ
ニケーションを可能ならしめる道徳的共同体とに、超越的基礎を与えよ
うとした。コンスタンの想定するロマン主義的超越界は、ただ非合理的
情念を通してのみ認識しうる世界であり、この世界を安易に政治と結び
付けようとすれば、危険な非合理的政治を生み出して自由主義そのもの
を掘り崩してしまう結果に陥る。そのためにコンスタン的個人とは自由
主義を支えるべき自律的な理性人であると同時に、非合理的世界を理解
しうる豊かなロマン的感性に恵まれた人間であることを要求されている。
コンスタンの時代とは比べ物にならないほど世俗化が進んだ現代において
理性的で自律的な個人を支えるべき新たな基礎を発見することは現代人の
直面した課題である。