上山安敏『神話と科学』岩波書店

神話と科学―ヨーロッパ知識社会 世紀末~20世紀 (岩波現代文庫)

神話と科学―ヨーロッパ知識社会 世紀末~20世紀 (岩波現代文庫)

【目次】
1 詩人の王国と認識の檻
2 「西欧の没落」と「職業としての学問」
3 「近代」のパノラマ
4 文芸出版の成立―思想のプロモーター
5 精神分析と社会科学―エロスの世界
6 アスコナ・コロニー
7 神話の古層―バハオーフェンの母権制


ウェーバーが活躍していたころの社会状況、特に知識人層の人々の係わり合いが書かれている。

色々な人々が関係していたのを知ることができる。怪しげな雰囲気だ。

当時の人々は様々な集団を形成していた。例えば、大学、コロニー、クライス(=サークル)、出版業界etc

その中のコロニーにはこのような人々がいた。

ここに集った人々は、機構的に組織された政治体制に別れをつげ、地上のユートピアを志向しようとする
アナーキストであり、資本主義と工業社会をつくり出した物質文明と技術文化を拒否して自然に還る菜食
主義者であり、社会のあらゆる因襲と道徳の拘束を断ち切って新しい人間の生き方を問う世界革命論者で
あり、教会にシンボライズされるキリスト教世界に棄教を行って代替宗教として神秘主義を再評価した新
智学者であり、ヨーロッパのあらゆる方向から国籍と故郷を棄てて放浪するボヘミアンである。
(pp.254-255)

このような人々が交流したり、反目したりしていたのだ。

科学的なものと神話的なもの両方が存在した社会だったのだ。

・・・保守的で伝統的なヒューマニズムでつつまれている。北方のプロイセンでは、科学が専門化し、学者が
専門技術者となり、乗り越えられることを宿命とした未来の科学に職業として仕えなければならなくなって
いったのに対して、ここでは、直観と観照による全体性と原型の探索の中に人間学を見出していた。
(p.376)

また、モデルネ(近代に逆行する人)によって出版革命が引き起こされ、モデルネの考え方が広がっていっ

た。ディレッタンティズムも広がっていったのだ。

このような中での思想状況は

一方でウェーバーのいう脱呪術化と合理主義化を科学の核に据えた社会科学の方法に対して、それと逆行して
人間の根源的なもの、全体知を取り戻そうとする神話化への方法が見られるが、それは非科学でも反科学でも
ない。近代(モデルネ:近代化ではない)が太古(アルケ)を呼び起こすように、自然科学がコスモロジー
甦らせる。近代芸術が科学と神秘主義の二重奏を奏でている。近代文学が神話化する時代の流れを響導してい
ったことは不思議ではない。まさにモデルネの文学は芸術と科学の一体性を求め、多くは神秘主義と感性に流
れていった。
(p.386)

というものであった。