竹内洋『立志・苦学・出世』講談社現代新書

立志・苦学・出世-受験生の社会史 (講談社現代新書)

立志・苦学・出世-受験生の社会史 (講談社現代新書)



受験する青年たちとその周辺、雑誌の社会史。

大変な頃。


■雑誌:意図せざる使用

受験勉強のハウツーのかわりに、東京でどう過ごすかの都会生活情報のほうにページが割かれている。当時の
人々にとって上京とはじめて汽船や汽車にのり、はじめて電気灯に出会うビッグな旅であった。地方に住む人
にとって東京は今のヨーロッパとくらべることさえもできないほど遠いところであった。東京でどう生活する
のかのマニュアルが必要だった。遊学案内が都会情報読本を兼ねていた所以である。
(p.64)

明治20年代(1887-1896)の頃の状況。
 都市(電燈etc)と地方の環境の違い。


■「空間」を誕生させるもの

こういう「たまらな」さは、いかにして学校を選定するか、どのように入学試験問題に対処するかなどのハウ
ツー領域(「受験法」「受験案内」「受験問答」)を誕生させ、受験という言葉を日常化していく、単に試験を
うけるというよりも試験の前の準備、受験校の選定などが特有の時間・空間として誕生する。受験はそのよう
な時間と空間を指定する用語である。こういう時空間あるいは受験という用語を普及させるのに寄与したのは
なんといっても受験ハウツー記事を詰め込んだ受験雑誌である。
(p.81)

→今まで、なかった時間・空間が創作(発見)されていく。
 「受験」という言葉、受験雑誌という媒体によってそれは創作(発見)されていく。


■世界の誕生

受験という観念の誕生は受験物語を紡ぎだす。青春という観念や恋愛という観念は正しい青春と正しい恋愛に
ついての物語を紡ぐ、それを同じように、受験という観念は正しい受験生とは何かについての物語を紡ぎ始め
る。こうして紡がれた受験物語は、試験を受ける者たちの行動規範(らしさ)を呈示する。・・・入学試験を受
ける青年についての定義と行為様式のシナリオができあがる。受験物語のシナリオは、日課表をつくって勉強
すること、参考書を使って暗記すること、努力すること、快楽をさけることなど、さまざまな行動の範型とし
て呈示される。受験生は受験物語によって規制されることになる。この規制作用によって受験的生活世界が誕
生するわけである。
(p.93)

→物語
 :行動規範の呈示→「世界」の誕生
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■物語を生きること

物語を生きるということは必ずしも物語にそった現実の行為を要しない。物語そのものに不断に接することで
可能なのである。受験雑誌の隠れた最大の機能はここにあった。
(p.129)

→「受験」という物語が描かれている「受験雑誌」⇔自己
                    【不断の接続】
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 物語を生きているという感覚