佐伯啓思「「欲望」と資本主義」講談社現代新書

「欲望」と資本主義-終りなき拡張の論理 (講談社現代新書)

「欲望」と資本主義-終りなき拡張の論理 (講談社現代新書)

【目次】
第1章 社会主義はなぜ崩壊したのか
第2章 80年代と日本の成功
第3章 資本主義という拡張運動
第4章 「外」へ向かう資本主義
第5章 「内」へ向かう資本主義
第6章 ナルシシズムの資本主義
第7章 消費資本主義の病理


物知りぶりが発揮されてる一冊。



人間の欲望という点から資本主義を問いなおす。

まず3つの論点に注目する。

ブローデルの「資本主義」と「市場経済」の区別
②バタイユの「過剰」なものの処理としての消費
③ジンメルのアイデアを参考にした「価値」の発生源について

ブローデル

比較的小規模な商人や生産者による競争的なものが「市場交換の体系」

経済ヒエラルキーの頂点にある、大規模な商人や生産者が独占的で国境を越えた

大規模な活動をしているのが「資本主義活動」であるとする。

著者はこれを参考に「市場経済*1」と「資本主義*2」を区別し後者は人々の欲望を拡張し

それに対して物的な形をたえず与えてゆく運動(p74)だとする。

バタイユ

生産力の過剰があるにも関わらず「経済成長」がおこらない未開社会を観察し

ある現象を発見した。それは、ポトラッチ*3というものであった。

ポトラッチにより未開社会では過剰は「消費」されてしまう。

資本主義ではポトラッチなどによって過剰を破壊することができない以上、それは基本的には

人間の欲望を開拓していく以外にない。欲望のフロンティアを開拓し、現在だけではなく将来の

放蕩にもむけて欲望のフロンティアを開拓すること、それが「過剰」に対する「資本主義」の

回答だとする。

ジンメル

人があるものを欲しがるのは、それが簡単には手に入らないからだという。つまり、人とモノの

間に「距離」があるからだという。「距離」から「欲望」が生まれる。

市場を舞台にこのような欲望のフロンティアの拡張自動運動が引き起こされることが「資本主義」

だとする。

資本主義の背後には消費の拡大があり、その背後には欲望の拡大がある。欲望のフロンティアが

拡大するから、企業は新しい事業を起こす。

資本主義はまず「外」へ向かう。「外」へ向かっていた「消費」の欲望が、やはり「外」に向かう

「投資」の欲望に置き換えられる。しかしフロンティアとしての「外」がなくなると次は「内」が

フロンティアとなり「社会」が欲望の対象となる。されに、この世紀末には「個人」へと移ってい

ったとする。

資本主義は自己増殖的な運動*4を繰りかえし、

また、近代人は「目的なき発展」、「終わりなき発展」を信奉してきた。

そこでは、「シミュレーション資本主義*5」など技術のフロンティアと欲望のフロンティアが

乖離しはじめており人間の未知なるものに対する想像力の危機がおこっている。

しかしながら、これにより著者は想像力を産業技術が独占していた「近代」を脱して、

それをもう一度、文化や知識の領域*6に取り戻す可能性も開かれてきているとする。

*1:市場メカニズムにしたがってモノやサーヴィスが交換される世界。「資本」蓄積、投資などによる事業の拡大はそれほど関心が払われない

*2:企業が絶えず、新たな利潤を求めて、蓄積した資本を積極的に投資し、しかもそのことが経済社会全体の物質的な富の拡大に決定的な重要性を持っている活動(p72)

*3:ポトラッチとは北西部アメリカ・インディアンなどに見られるもの。莫大な富の贈与やあるいは破壊。

*4:人々の欲望を開拓し、それを商品化し、そこに利潤機会を作り、それに投資し、さらに新たな技術やマーケットを開拓するなど

*5:モノを生産しない、ただ感覚刺激だけを生産する資本主義

*6:著者はモノは本来、技術だけではなく文化の産物でもあり、経済活動自体が本来は広い意味で文化という土壌と不可分とする(p217)