(改革の季節)宮崎哲弥、小野展克「平成革新官僚」、中公新書ラクレ

【目次】
総論 官僚制を壊す官僚たち(国家機関のなかの個
組織人の壁 ほか)
第1章 金融庁―対りそな公的資金注入が破った壁(新日本監査法人
紳士との面談 ほか)
第2章 国土交通省農林水産省―「政・官・業」利権構造の壁(国土交通省―握りつぶされた道路公団改革案
農林水産省―「脱・生産者偏重」の農政に向けて)
第3章 財務省・外務省―溶解する意思決定の中軸(財務省国益を見失った「最強」の官僚集団
外務省―難民問題先送りの代償)
第4章 文部科学省法務省―基盤整備の改革に挑む官僚たち(文部科学省―四面楚歌の「ゆとり教育
法務省―司法制度改革は「革命」となるか)



「改革」という言葉はいつの時代にも存在する。
最近では、小泉首相になってからまた活発に使われ始めた。
本書では改革に携わる官僚達の新たな「公」を模索しようとするところを取材したドキュメントである。


何事かをなそうとするとき、大きく分けて2つの方法があるとする。
1つは個の力のみで成し遂げる道
もう1つは大きな組織の中にあって、成し遂げる道である。

戦後、1980年代まで日本はまだ「近代国家としての普請」が終わっておらず自己実現として何事かをなすためには組織に入るしかなかった。そこで、最優秀のエリート学生達はこぞって中央官庁にという組織に入っていった。(P4)

しかし、バブル全盛期の80年代後半あたりから社会的条件が変わり始めた。
そして官僚たちの役割も「治者の治者」から「公僕(=パブリックなサービスを提供するのも)」に変化し、その中で国家や官僚システムを運営していくことになった。(P5)

そこで、革新官僚の意味も変わってきている。
以前は官僚が存分な裁量を握り行政指導を通じて業界を巧妙に統制する。目指すものは法制度の壁をときに乗り越えて強力な指導力を発揮するクリエーティブ・エンジニアであった。
(P18)
現代においてはこれとは逆の道を目指す。官僚の仕事を法律立案運用解釈だけに限定しても活力ある社会、経済が実現できるような制度整備に力を注ぐものたちいなった。(P23)


小泉首相になってから特に改革が叫ばれ
特に30、40代の若手改革派官僚たちは様々なシステムにメスを入れようとしている。
しかし、そこには猪瀬直樹氏が言うように「連続性のとの闘い」や
木村剛氏が指摘する「ベスト・オア・ナッシングの罠」が壁として立ち塞がってくるのである。(P10)


本書では各省庁の改革の様子が書かれているが
改革の契機となるのは大きなインパクトのある出来事である。
金融庁=りそなへの公的資金注入
国土交通省=道路公団改革
農林水産省=BSE問題とFTAの遅れ
財務省=官僚の不祥事(ノーパンしゃぶしゃぶなど)と不良債権問題
外務省=北朝鮮問題(難民など)
文部科学省法務省=「ゆとり教育」の開始と批判
法務省=弁護士不足とロースクール構想

このようななかで革新官僚達は
自らの権限を固守し、権能を少しでも拡大したいという「自己増殖のDNA」(P202)という壁にぶつかりながらも行動しているのである。
そして、この革新官僚たちを強力なマシーンとするのは政治の側のはっきりした意志や方針なのである。(P102)


官僚たちが「3等国の選良(エリート)」となるか「1等国の公僕」(P153)となるかは
自分達の行動に次第である。